キーワード|社会に適応できない
「宇都宮」「カウンセリング」「臨床心理士」というキーワード検索で当オフィスのウェブサイトへお越しになられる方が最も多いのですが、その中に紛れてこちらのキーワード検索でお越しになられる方もたくさんお見えになります。
「社会に適応できない」
今日はこの「社会に適応できない」について書いてみようと思います。
まずは喩え話から始めたいと思います。少し長い喩え話になります。
今、あなたの前に植物の種がひとつあります。
しかしあなたはそれが何の種かわかりません。
にもかかわらず、あなたはこの植物を枯らさないように大切に育てる役割を与えられました。
そんな時、あなたはどうしたら良いでしょうか?
枯らさないように大切に育てるためには、何の植物の種かを知る必要があります。
身近な誰かに尋ねるかもしれません。
画像を撮り、SNSにアップして、フォロワーに拡散してもらい、多くの方の意見を求めるかもしれません。
場合によっては、googleレンズで検索するかもしれません。
幸い、その植物の名前がわかりました。
「ソフォラ・ミクロフィラ」
聞いたことのない名前です。どう育てたらよいか、皆目見当がつきません。
そこで「ソフォラ・ミクロフィラ 育て方」で検索してみました。
するとたくさんのウェブサイトがヒットしました。
それらを整理してみると次のようです。
・風通しのよい環境を好み、風がない場所ではうまく育たない。
・日当たりのよい環境を好む。ただし夏の直射日光や西日など強光に当たると葉焼けしやすいため注意が必要。
・やや寒さに弱い。最低0℃以上をキープ。0℃以下の温度に当たり続けると葉がぽろぽろと落ちて枯れる原因になる。
・手で土を触り水分を感じなくなったら、鉢底から水が流れるくらい与える。完全に水切れをさせてしまうと葉がぽろぽろと落ちるため気を付ける。
・根腐れ、根詰まり、葉焼け、ハダニに要注意。
・上手に育てると鉢植えでも1m以上になる。
ここまで調べ、育て方についての知識は得ました。
しかし、「風」「日当たり」「水やり」「温度」のどれをとっても抽象度が高く、実際にどの程度が必要か掴みにくいままです。
それでも、この植物を枯らさないように大切に育てなければなりません。
そこで思い切って、近くの観葉植物専門店へ相談に行くことにしました。
店員さんが笑顔で迎えてくれました。
「ソフォラ・ミクロフィラ」の育て方がわからず困っていることを相談しました。
店員さんは、しっかりと耳を傾け、その不安を理解し、「ソフォラ・ミクロフィラ」を育てるのに適した植木鉢や土や肥料などを教えてくれました。
抽象的だった「風」「日当たり」「水やり」「温度」についても具体的に教えてくれました。
万が一、トラブルが発生したら、いつでも対応してくれると言ってくれました。
どうしても家を数日空ける必要があり、適切な生育環境を維持できない時には、お店が預かってくれることも提案してくれました。
初めてのことに試行錯誤し、四苦八苦し、紆余曲折を経巡り、時にトラブルに見舞われながらも、様々な人に相談し、知識をもらい、サポートを得て、大切に育て続けた「ソフォラ・ミクロフィラ」はある程度の大きさまで育ちました。
今も変わらずに、共に歩んできた物語とともに、愛着を持って、枯れないように大切に育て続けています。
喩え話が長くなってしまいました。
「ソフォラ・ミクロフィラ」がある程度の大きさまで無事に育ちホッとひと安心したところで、タイトルの「社会に適応できない」に戻りたいと思います。
「社会に適応できない」を分析してみると大きく5つにわけることができるのではないかと思っています。
(1)何の種か分からない、育て方がわからない
→ 自己理解が進まない、自分に適した環境がわからない、ために適応の方法が見つからない
(2)植物の名前と育て方がわかっても、経験がないため適切に育てることが難しい
→ 診断名がわかり、インターネットや本から知識を得ても、実際に社会にどのように適応すればよいかわからない
(3)植物の原産地とまったく異なる気候(環境)で育てようとしている
→ 自分に合わない環境に無理して過剰適応しようとし続けている
(4)知識と経験がある人のサポートが得られない
→ 同僚・先輩・上司・理解者・支援者などに恵まれず、孤軍奮闘している
(5)過去に何度か枯らしてしまったことがあり、育てることが怖くなっている
→ 適応が叶わない経験が重なり、無力感が大きくなり、「自分は社会に適応できない」と諦めが強くなっている
今後、書き直す可能性もあるかもしれませんが、5つを挙げてみました。
では、「社会に適応する」にはどうすればよいでしょうか。
きっと植物を枯らさないように大切に育てることと同じなのではないかと思います。
(1)知識や経験が豊富な精神医学や臨床心理学の専門家に相談する
(2)アセスメントを受ける(植物の名前と適した環境を知る)
→ 自分の側の要因(例;神経発達特性、トラウマ、パーソナリティ、精神疾患など)を知る
→ 環境の側の要因(例;不適切な環境、いじめやハラスメント、そもそも合っていない環境、など)を知る
(3)アプローチの方法を学ぶ(適切な環境の中での適切な育て方を知り、実際に試みる)
→ 自分へのアプローチ(例;心理教育、自己理解、ソーシャルスキル、成長・発達など)
→ 環境へのアプローチ(例、環境調整、特性・疾患の理解、合理的配慮など)
(4)自分と環境とで相互調節を図る
→ 実際に適応を試み、ヴァリアンス(不具合やトラブル)が生じたら、それを素材として検討し、相互に調節を重ね、ほどよいバランスを模索する
このようなことを丁寧に行うことにより「社会への適応」が徐々に進んでいきます。
「社会」というとあまりに大き過ぎると思います。
ある心理職は「半径5メートルの適応」が大切であると言っています。
あなたの身の回りの限られた環境にあなたなりの方法で適応すればよいのです。
「社会へ適応できない」と苦悩されている方は、おひとりで抱えず、もしよろしければお話をお聞かせください。
あなたの「半径5メートルのあなたなりの適応」を一緒に考え続けていきたいと思います。